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砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編

砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
「カッコいいからこの写真好きですね」とハマー。Team HRCで#6をつけて駆け抜けた



砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編

アメリカで修行して実力を伸ばしながらも苦労を重ねたハマーが、ついに全日本チャンピオンに輝いたストーリー。同時に若手の育成やモトクロスの普及を心に決めて、いまでも挑み続ける監督としての姿がある。今回はマネージャーにも登場してもらい、チーム活動を語っていただいた
インタビュアー/DAIGO MIYAZAKI  
タイトルデザイン/浜田具秀



砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
右も左も分からずにチームハマーを立ち上げた頃。「三田君と杉本君とA君(警察官のおえらいさんです)と4人で、月2万円のガレージでやってました」



バイクに乗りたい子なんてめっちゃおるやん!

 チーム設立から15年を経たチームハマー。2003年から「オフィスハマー」という会社を設立して、運営をおこなう。ここを土台として、高濱とチームマネージャーである植村沙織は、レーシング活動だけでなく、キッズスクールなどを通して、モトクロスやバイクの認知度を高める活動をおこなっている。
「業務委託としてスクールを開催してきましたが、『これはモトクロスやバイク業界内のスクールであって、これからは業界外で新規開拓していかないと広がっていかないんだ」と気づきました。行政にアピールしながら、とにかくモトクロス業界以外の場所で開催して、バイクに乗りたい子を見つけていくべきだと思ったんです。誰もヒントをくれないし、時間もかかりました。どうしたら実現できるのか、マネージャーと一緒に長い時間考えてきました」と高濱。
 植村マネージャーは、
「行政のお仕事が出来たきっかけは、東日本大震災の被災地の支援に、姫路市の方達と一緒に行ったことでした。もちろん見返りを期待して支援しに行ったわけではありませんが、そのことがきっかけとなって、『姫路食博』という、まったくバイクと無関係のイベントでもスクールをやらせてもらえることになったんです。姫路城の前で16万人の動員数があったイベントで、多くの人が来てくれました」と話す。日曜日の午前中に予約が埋まるほどで、相当良い反響だったようだ。
「その場でチームハマーに入りたいという子もわんさかいました。このイベントはそういう目的ではないのでお断りさせていただきました。でも『バイクに乗りたい子なんてめっちゃおるやん! アピールの仕方が良くなかっただけやん』って思いました」とハマーは話す。
「食博の経験で考え方が変わりました。大きな問題もあって、まずガソリンを現地で補給することが不可能なので、先にオフィスで満タンにしてから4トントラックで運ばなくてはいけなかった。姫路市の協力があったから出来たことでもありますし、他の町で出来るかどうかという問題もあります。危険物取り扱いの資格を取得するべきなのかとか課題はまだあります。イベント1つやるのも決して低いハードルではないんですが、それをクリアできたことは自信につながりました」




日本人が
クーパー・ウェブのサインを
もらいに行くのではなく
クーパー・ウェブが日本人の
サインをもらいにくる。
それが理想だと
本気で思っていますよ。






どうしたらバイクやモトクロスが
認知されるのかを考える日々


 ここ日本におけるバイクのイメージはどうだろう? まずそこから考えてみたい。モトクロスは文部省認可のスポーツであり、実際、一生懸命に取り組んでいるライダーは誰から見ても魅力的なはずで、それは野球やサッカー、テニス、フィギュアといったメジャースポーツにひけをとらないものだ。だからどう見せるかが大事だと2人は考える。
「『モトクロスって楽しそうだね』と思われるように、ピットシャツもしっかり着こなして、紳士的なスポーツというイメージを持っていただきたいですね。イベントをやれば一時的にバイクに関心を持っていただけるけど、時間が空いてしまうと駄目。いかにコンスタントに普及活動を続けられるかも大事です。チームハマーは全日本選手権も地方選もあるし、育成も力を入れています。お金も時間もかかる作業ですよ。
 私たちが現役のときに効果が出るかと言えば微妙だと思います。でも今後モトクロスが栄えていく手助けにはなると思う。見返りを気にせずやっています」と植村マネージャー。
 Xファイターズやナイトロ・サーカスが都市で開催されるようになったいま、ある意味モトクロス界にとっては大きなチャンスだ。モトクロスの知名度が上がれば、モトクロスの活動を公認にしてくれる高校も増えるかもしれない。「わざわざアメリカに遠征しなくても、世界のトップクラスに成長できるような環境を作る」。それが2人の考えている理想だ。
 チームハマーの2人はいま現在も、どうしたらバイクやモトクロスが世間に普及していくか、真剣に考えている。地盤づくりのためにも、今後はキッズ向けイベントだけでなく、大人向けのエンデューロなどを企画して、まずは行政の人たちに存在を知ってもらいたいと言う。普及活動にはどうしても時間はかかるもの。チームハマーは手間暇をかけてでも、普及させようと取り組んでいる。ただ難しいのは、普及活動はコツコツやるだけじゃ広まらないということ。
「演出は大事です。ときには自分たちが望んでいない演出さえもしなければいけないかもしれない。そこの割り切りは難しいですね。言い方は良くないけど、チャラチャラしたほうが受ける時代でもあります。チームハマーはそういうチームじゃないけど、イベントでは魅せることも必要なんですよね」と植村は話す。

砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
レースやスクールなどを開催している多度の屋根の下で、植村沙織マネージャーと。2人は10代の頃からの知り合いで、お互いの良さを尊重してチームを運営している


砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
多度アリーナクロスではチーム員がスタッフを手伝ったり、デモ走行で湧かせる


砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
青木社長(写真右)とはゆかりの深い仲。多度の運営の多くをチームハマーはまかされている



一番大事なのは、素直に人の言うことを聞けるかどうか

「クーパー・ウェブが来日して、日本人がサインをもらいに行くのではなく、ウェブが日本人ライダーのサインをもらいにくる。それが本当の理想だと思っていますよ」と高濱は話す。
 1999年から立ち上げたチームハマーは数多くのライダーを育成してきた。富田俊樹、中堀敏宏、道脇右京、山口航、前田祐希、矢野昇平、矢野和都などなど。育成ではないが、小方誠も2年間在籍して、高濱と同じ屋根の下で過ごしてきた。
 現在も多くのトップライダーを抱え、2014年は各クラスで活躍を見せた。竹内優菜はレディスクラスで初のタイトルを獲得。古賀太基がIBオープンチャンピオンを獲得。大城魁之輔はMFJモトクロス全国大会ジュニアクラス優勝、中部選手権ジュニアクラスチャンピオン、鈴村英喜も全国大会NAオープンで優勝、中部選手権NAオープンチャンピオン。小林伊織が全日本ジュニアチャンピオンを獲得するなどタイトルラッシュに湧いたのだった。他にも将来期待されるライダーが多く在籍している。そこでモトクロスライダーの育成に対しての考え方を探ってみよう。
「一番大事にしているのは、素直に人の言うことを聞けるかどうかということです。学ぶ気持ちが最も大切で、損得勘定だけでは成功しません。親御さんも含めてのつきあいですから、家族の協力も必要なんです」とハマーは話す。
 植村マネージャーは幼少時からテニスの教育を受け、メンタルテストやトレーナーによる指導を管理されてやってきた。テニスはクラブチームに入ったときから親の介入は不可能となる。しかしモトクロスは親が会場に連れていく必要があり、家族が密接な競技でもある。そこで、チームハマーでは予備軍なるライダーズフレンドに一年間加入してもらい、親がチーム方針にそえるかどうか判断していると言う。運営費の徴収もなく、まさに育成と将来性だけを考えたシステムとも言える。現在のチーム員のことも大事だから、簡単に入れるチームにしないという方針だ。チームハマー、ライダーズフレンドともに、ライダーとの契約書は5枚に渡り、印鑑や本人の署名も必要。ライダーは必然的にモトクロスへの意思が強くなる。
「子供だからという言い訳も絶対にさせません。バイクに乗れば人を殺しかねないリスクを背負います。スポンサーを1つでも頂いた時点で大人と一緒です。他のスポーツを見ても同じこと。いまはまだギクシャクしているかもしれませんが、スタートを切った以上、やらないといけないんです」

その子が一番伸びる方法をとる個人指導が大切な時代へ

 チームハマーというとかつては高濱の厳しいスパルタ教育というイメージもあったが、いまでは植村と役割分担をして、急速に効率的な育成をおこなうチームとして成長を遂げている。高濱はHRCでの経験を活かして、マシンづくり、チューニングを担当するほか、もちろんライディング技術も指導する。植村は自身がアスリートとして長年生活してきた経験もあり、食生活やメンタルなどの面からサポートをおこなう。
「一番大事なのは、誰もが昔学校で習った道徳の部分なんです。技術は、ライダーが本気に学ぼうとしていたら教えることができます。心の部分は技術以上に大事なんですよ」と高濱は話す。
「最低限自分の力でここまでやってこい、というのはありますよ。でも、その先は個人個人の指導がないと伸びないんです。その子の個性も大事にしたいから、すべて時間がかかります。僕たちが育ててきた子が今年からNA、IBになるので、これからが新生チームハマーじゃないかと思います。昔、中堀たちには僕が1人で『ええい、あれやれ! これやれ!』ってやってきましたけど、これからはプログラムされたチームになっていきます。もちろん怒るときは厳しいし、指導のレベルは下げません。ただその子が一番伸びる方法を選ぶということなんです。だからこそチームハマーは速くなければいけない。行動も周りから見られている。格好いいチームハマーでい続ければ、みんなが追いかけてくれる。それがモトクロスのレベルアップにも繋がる。
 僕らが目指すのは世界で通用するライダーです。アメリカ行きへの願望も、アメリカ人だから速いという考え方もなくしたい。日本人にも強い面があるんです」

フィジカル、マシン、メンタルが揃って
モトクロスの成功は生まれる


「2013年、竹内優菜がチャンピオンを獲れなかったことが凄く心残りになりました」と植村。「実力的には獲れたんじゃないかと。シーズン後半、優菜は相当なプレッシャーを抱えていました。一時はパドックから出られないほどでした。私たちも上手く助けてあげられなかった。2014年は知り合いの大学教授の協力をいただいて、メンタルテストを取り入れました。いまではIA以外のチーム全員に受けさせて、ライダーの性格を分析してもらい、指導方法を考えています。叱って伸びる子も、褒めて伸びる子もいます。怒り方や褒め方も、全員分けてきました」と植村マネージャーは話す。
 口で「頑張れ!」「やれ!」という時代ではなく、トレーナーによる個別指導をしないと、海外で通用しない時代にきていると痛感した高濱。事実ほかのスポーツでは当たり前におこなわれているこれらのことだが、日本のモトクロスは大きく遅れているのが事実。オリンピック競技の育成もしかり。「モトクロス・オブ・ネイションズもありますし、モトクロスだってオリンピックと何ら変わらない」と高濱は話す。
「竹内はやはり女の子なので、いくら高濱監督が親身になって指導しても、女の子の目線で考えることはできません。力も違うし、考え方も違う。私がフォローするのはそういうところでもありました。私は監督に『この子はこういう指導がいいのでは』と提案して、監督がトレーニング内容を考案しています。2014年は一年間を通してそれをやりました」と植村。
 さらに2013年からカーボローディングをトップライダーに導入し、2014年からは毎レースチーム員全員に対しておこなっている。ただしジュニアの子はやりすぎるとストレスになるので気を使うという。今後は4トントラックにキッチンを装備して、食生活も管理したいとのことだ。
 フィジカル、マシン、メンタル、すべてが噛み合わないとモトクロスで成功することはできない。その完璧な状態に近づけることが、チームハマーの仕事でもある。もちろん合宿や合同練習の内容も綿密に考え抜く。走りが悪いライダーに対してどう接するのかなど、瞬時に判断できなくてはいけない。当初はとまどうこともあったと言うが、いまではだいぶライダーの個性を把握して、その場で対応できるようになったそうだ。新しいライダーが加入したら、また性格分析から始める。

砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
「チームハマーからHRCに送り出したマコちんは、僕のイチゴを99%食べてごちそうさまだって。今でも可愛いですよね。


砂煙の追憶 VOL.11 高濱 龍一郎 [たかはまりゅういちろう] 後編
「18歳から19歳の頃、バイク生活をサポートしてくれた『寿司やまひろ』の主。僕のこの体は寿司で完成されたなり。ん~当時はいい体ですね。大将ありがとう! 感謝しています」



元祖の多度で50㏄の全国大会を開催したい

 先月号、今月号の取材はモトクロスランド多度でおこなった。チームハマーとモトクロスランド多度の関係は深く、ベストな場所だと考えた。
「かつて多度には250台くらい来ていましたが、他のコースに移っていった方もいます。僕はそこで盛り上がっているんだから、それでいいと思います。でもここはなんといっても元祖じゃないですか。中部地方で集まりやすいし、実際昔は関西と関東のトップライダーの対決もありましたしね。なんといったって、屋根付きの多度は雨が降っても絶対にレースができる所。50㏄の全日本大会が開催できる唯一の所だと思います。初めての子も安心して走れる優しいコースです。この夏は50㏄の大きな大会を多度でやりたいですね。目標は200台です。あとはタイミングですね!」と高濱。
「日本のライダーが速くなれないのはコースが狭いからと言う人もいるけど、多度で育ってIAに上がったライダーも多いです。小方誠選手も小島兄弟、稲垣兄弟、平田優選手もそう。日本人には日本人の速くなる方法がある。ダイナミックさがなくても器用さがある。日本人だって絶対に勝てるんです」
「コースの社長(青木社長)が家族関係に口を出すのはここだけですよ(笑)。裏表ない。いいことはいい。悪いことは悪い。それが多度の本質だから、子供を育てるには絶好の場所です。いまあそこで子供達がたき火していますけど、ここでそういう体験をしているから、絶対に影で火遊びなんてしませんよ。昔ながらのおじいちゃんが、近所の子供を集めて遊んでいる光景です。分け隔てなくかわいがるし、褒めるときは褒める。叱るときは叱ってくれる。50㏄のお子さんを持つ家族にはぜひ連れてきてほしいです。しつけは社長がやってくれますから(笑)。思春期の子だって親の言うことより、他の人の言うことなら聞ける。社長の家に家出してきた子もいるし(笑)。
 2013年から多度の運営を、ほぼチームハマーでやらせていただいています。コースの協力があるからこれだけ活動できるんです。もう少しライダーが集まったらナイターをやるっていうので、頑張って集めます!」
 バイクの普及、ライダーの育成、イベントの運営。2人は一年に休みが4日あるかどうかというくらいの多忙ぶり。それでも何かの形として残したい、その想いでチームハマーは全国を走り続けていく。

◎記者の目

かつてアメリカのモトクロスに憧れ、単身修行して実力を身につけたハマーだが、それでも日本人の誇りを忘れない姿があった。全日本チャンピオンを獲得したシーズンオフ、ダートスポーツ別冊でCD付きのライテクムックを制作したとき「日本にも素晴らしいメーカーがあるんです」と言って、ウエアやゴーグルなど日本製のライディング装備にこだわっていた姿が印象に残った。「クーパー・ウェブが日本のモトクロスライダーに憧れて来日するくらいじゃないといけない」と話すハマー。かつてネイションズで世界を相手に6位に入った男の言葉には重みがある。

◎PROFILE

高濱龍一郎(たかはまりゅういちろう)
1976年3月2日生まれ。IA昇格と同時に渡米し、1992年AMAスーパークロス125ccウエストシリーズランキング30位を獲得。1998年にTeam HRC入りを果たし、2000年に全日本モトクロスIA250ccチャンピオンを獲得。そのシーズンオフに開催されたモトクロス・デ・ナシオンフランス大会では熱田孝高(250cc)、成田亮(125cc)と組んで(高濱はOpen)過去最高タイの6位を獲得。1999年にチームハマーを結成

月刊『ダートスポーツ』2015年3月号(http://www.zokeisha.co.jp/dirtsports/archives/13919
に掲載された記事となり、情報は発売日当時のものとなります。



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